TEO Side Story TEO Side Story
last updated 1997/07/24

第70話(全130話)

神族(9/10)




 答えてピートは、オズの大王と向かい合っているドロシーのような気分になる。
 ・・望みを申せ。
 ・・お家に帰りたいんです。
 ・・ならば、西の魔女を倒して来るが良い。
 まさか、ぼくに魔女を倒せば帰れる、なんて言わないでくださいね、アーバムさん。
「テラへ帰る道のことだね、ピート?」
「え、あ、はい」
 知ってるのか、テラを。そして、ぼくを。
 思い、宇宙の知識をすべて蓄えているトーテム・ポールがあることを思い出す。
「それはテオとテラを結ぶ道を開け、ということだ。前にも一度、その道は開かれたことがあ
り、その時はテラのほうのバランスが大きく崩れた」
「テラのバランス?」
「洪水が襲ったと記録にある」
「あ・・」
「それ以来、きみの望む道は封印されておる。だが、吹き込んできた風は吹き流さなければな
らんのじゃろう。風をとどめておくのは、大気を淀ませるだけだからな」
 風の通り道を開け。
 そういうことなのだろう。
 しかし、その道はかつて、テラを大きく揺るがす原因になった。バランスを崩していたテラ
は、大量の水で浄化されたのだ。そのあまりの凄まじさを恐れて、道は封印された。
 長老は重いタメ息をつく。
 もし、ピートがひとりでここへ来たのなら、別の答えを導き出したかもしれない、と長老は
思った。彼がただ「帰り道を教えてください」と言っただけなら、茶色い花の咲く場所を教え
てやれば、それで良かったろう。だが、ピートはマリカと共に現れた。マリカはたまたま実体
化したピートを目撃し、もう一度まぼろしのような少年に逢う方法を教えろ、と言ってきた。
マリカの問いに答え、さらにピートの質問にも答えなければならないとすれば、導き出される
のは、たったひとつの答えだけだった。
 テオとテラを結ぶ道を開くこと。
 そうしてテラへと戻るその時に、マスターから分離して、意識体は本格的に元の実体へと戻
るだろう。その場にマリカを立ち会わせること。それ以外にマリカがピートと再会できるチャ
ンスはないし、実体としてピートをテラへ帰すには、道を開くしかない。
 答えはひとつ。
 封印を解く。
 ただ、それだけだった。
 長老はアーバムの仲間たちを振り返り、ひとりひとりの顔を眺め渡した。アーバムたちはそ
れぞれに、真剣な目で重々しいうなずきを返して行く。それを確認して、長老はピートへと目
を戻す。
「ピート。きみの質問に、答えよう」
「はい」
「旅を続けるのだ。旅はきみをバアグのもとへと導く。バアグがきみのために道を開くだろう
」「帰る道を、ですか?」
「風の通り道、じゃよ」
「けど、それはテオを危険にさらす結果になるんじゃ・・」
 長老はピートをみつめ、微笑んでみせた。
「星の行く末はすでに宇宙の誕生の時より定まっているのじゃよ。だからきみが案ずる必要は
ない。たぶん、君が開く道のせいで起こるテオの変化と言えば」
 長老は囲炉裏の火を見た。
「あの火の揺れが治まること、ぐらいだろう」
「たぶん、ですか?」
「答えはひとつじゃない。そう言ったね? だからこそ、生きるのは面白い、と。だから、た
ぶん、で充分じゃないかね? 運命は流れの中で刻々変化する」
 長老は言うと、ピートをマリカたちの待つ別棟へと案内させた。
 待っていたマリカは、何だかまた途方に暮れてしまっているような気配の漂うマスターを見
て驚く。
「何て言われたの?」
「マリカと同じこと」
「え?」
「旅を続けろって」
「ハ!」とパピロが笑った。「それがデリケートな答えなの? そんな答えならもったいつけ
ずに話せばいいのに、アーバムってのはヘンテコな連中だなあ」
「旅を続けろ? だってあたしはまだ城へ帰るつもりはないわよ」
「うん。ぼくの帰り道は来た道を戻るっていうのじゃないらしいよ。新しい道を開くんだって
」「謎々のつもりなの? 全然わかんないよ」
〈きみがわかんなくたっていいんだよ、パピロ。彼が理解してれば、それでいいんだ〉
 フィンフィンが言う。フィンフィンはピートの心を読んで、そっとピートにだけ語りかけた
。〈何だか凄いプレッシャーだね。星と星との架け橋をきみが開くだなんて〉
 フィンフィンにピートは肩をすくめてみせる。
〈こんなことになるとは思ってなかったよ。何かとても大事になってきちゃったみたい〉
〈本当だね。でも、アーバムたちが守ってくれるさ。きみもテオもテラもね。バランスを維持
する術なら、彼らは熟知してるんだもの。きみが気に病む必要はないよ〉
〈長老さんもそう言ったよ〉
 タメ息をついて、ピートはマリカへと問い掛けた。アーバムに質問するのは習わしに反する
と思ったことを。
「マリカ、ひとつ教えて」
「なあに?」
「バアグって何だか知ってる? 長老はバアグがぼくたちを待ってるって言ったんだけど、そ
れって動物?」
「バアグ!」
 その名を聞くなり、マリカは一歩後ろへ下がった。フィンフィンもパピロも「うわっ」との
けぞった。その反応に驚いて、ピートも飛び下がる。
「何なの、みんな? 何でそんなに驚くの?」
〈だって!〉                                    
 とフィンフィンが悲鳴まじりに言う。
〈バアグって言えばいちばん野蛮な奴なんだ。奴はフィンクを頭からバリバリ食べちゃうって
噂があるんだよ〉
「そう、とても野蛮だと聞いてるわ」とマリカ。「あたしも噂でしか知らないわ。バァグはテ
オでいちばん恐れられてる野獣よ。あまりにも狂暴で手がつけられないから。ケダックを追放
されて以来、姿を見た人はいないけど、その恐怖については誰もが知ってるわ」
 ピートも怖くなってきた。

(つづく)




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